…昨日。
心的外傷を負った様な感じで、硝子の中年、ガラスの四〇代は心を粉砕骨折。
硝子の中年時代の破片が心に突き刺さり、壊れそうな物ばかり集めてしまうよ…。
其れはさて置き、一旦再起動しようと思い、伸び切った頭髪を切り落としに行く。
十二時半の予約を前に、先に昼御飯と景気付けの一杯を引っ掛けようと、
前回、前々回に引き続き、三月二十四日以来、二ヶ月振りの此方へ。
相変わらず此の街は、助平目的の同好会に所属しているであろうゆとり世代が、
佃煮にする程に蠢いており、如何も据わりが悪いな…。
…開店直後、十一時一〇分に到着すれば、僕が口開けの客の様だ。
券売機で一通り食券を購入し、選び放題の席にヨッコイショーイチ。
御店主は奥で仕込みをしており、前面では御子息と若い店員氏が切り盛り。
食券を手渡し、程無くして、瓶麦酒と洋杯を受け取り、手酌で注ぐ。
すっかり真夏の酷暑日なので、暑気払いも兼ねてグイッと呷る。
午前中から飲る麦酒と言うのは格別で、一週間の労を労う。
摘みも提供され、叉焼の切り落としと麺麻は相変わらず秀逸。
…麦酒を半分程飲った所で、御待ちかねのつけ麺の御出座し。
矢張り、「全部のせ」は具沢山で心丈夫だ。
此れ等をつけ汁に移せば、警戒水位を超え、今にも決壊しそうな勢い。
準備が整った所で、麺を手繰り、つけ汁にドヴンと浸して一気に啜る。
つけ汁は完全無化調を謳う、魚介と豚骨の合わせ技。
此方の豚骨スープは、豚の頭のみを使用し、只管、スープと睨めっこで、
丁寧な灰汁取り作業、火加減、スープの色、匂い、蓋の開閉を調節し、
豚の頭が砂状、粉状に成る迄、丹念に煮込んで混ぜると言う。
魚介スープは拳骨をコトコト八時間以上煮込み、此れも火加減の調節を行い、
魚をぎゅうぎゅうに押し込み、出汁が出たら急冷保存し、
豚の油に魚の香り付けをし、此の油でプースーに蓋をし、香りと旨味を保つ。
其の豚骨と魚介のプースーを配合し、此の無化調の優しいつけ汁が完成する。
在り来たりな、市井に溢れる魚介系豚骨つけ麺とは一線を画し、
力強さが有るのに、上品な味わいが感じられる、身体にも良さ気な味わい。
此方の御店主は、年間三六〇食、此方のラーメンを食し、毎年三六〇日前後、
一日十八時間労働を続けていると言うから、言ってみれば健康食だわね。
麺はと言うと、店内奥の「栗原製麺室」で打たれる自家製麺。
国産最高級小麦三種類を使用し、特別な粉末鹹水を使用し、
準強力粉と中力粉の配合で、ツルツル、モチモチ感を意識していると言う。
並盛りは、茹でる前は三五〇グラム、茹でた後は約七〇〇グラムと言うが、
啜り始めると、其の旨さに、スルスルと入ってしまう。
茹で時間に八分を要するが、ラーメンの麺と変わらない細さで、食感も良い。
さて、お次は具に移行しよう。
叉焼は特大バラ肉使用し、普通は板状のバラ肉を四分の一に切ると言うが、
此方では二分の一、即ち、倍の大きさで、厚さも極厚、一糎は有る。
二倍の大きさで肉をじっくりと、時間を掛けて煮込むとトロトロに成り、
肉を緩く巻き、煮込んでいる間に更に大きくさせると言う原価割れと言う代物。
ふわふわに軟らかい赤身と、トロトロに蕩ける脂身が絶妙だ。
麺麻は何時にも増してロイクーでイカンガー色をしている。
太さは無いが、甘目の味付けが確りと染み込み、軟らかくて食べ易い。
味付け玉子は一個半入り、黄身がドピュっと飛び出し、ねっとりと濃厚。
他に海苔が三枚入り、正に具沢山。
存分に味を堪能し、最後はつけ汁を飲み干し、骨粉と魚粉のヂャリヂャリと、
出汁の養分を漏れ無く摂取し、御馳走様でしたと告げて退店。
鶴ヶ島に在った時分より、矢張り大好きな店だ。