続・ROCK‘N’ROLL退屈男

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「親父の一番長い日」/さだまさし

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昨日から、「さだまさしのために」と言う本を読み直し始めた影響から、
今日は一日、車内ではさだまさし氏の曲を只管聴いていた。
運転し乍ら、何度涙ぐんだ事か…。
まほろば」、「飛梅」、「つゆのあとさき」、「風に立つライオン」、「主人公」…。
中でも、此の「親父の一番長い日」は聴く度に泣ける。
もう、理屈抜きに。
余計な言葉は要らない…。
十二分三〇秒の超大作の名曲。


★「親父の一番長い日」/さだまさし
 
  作詞・作曲:さだまさし

おばあちゃんは
夕餉の片付けをを終えた時
弟は二階のゆりかごの中で
僕と親父は
街頭テレビのカラテ・チョップが
白熱した頃に
妹の誕生を知った
それから親父は
占いの本と辞書と
首っぴきで
実に一週間もかけて
娘のために
つまりはきわめて何事もない
ありふれた名前を見つけ出した
お七夜 宮参り
夫婦は自画自賛
可愛い娘だと
はしゃぎ廻るけれど
僕にはひいき目に見ても
しわくちゃの失敗作品
やがて彼女を訪れる
不幸に胸を痛めた
兄貴として

妹の生まれた頃の我が家は
お世辞にも豊かな
状態でなかったが
暗闇の中で何かをきっかけに
灯が見えることがある
そんな出来事だったろう
親思う心に勝る親心とやら
そんな訳で妹は
ほんのかけらも
みじめな思いをせずに育てられた
ただ顔が親父に似たことを除けば
七五三 新入学
夫婦は狂喜乱舞
赤いランドセル背負ってか背負われてか
学校への坂道を
足元ふらふら下りてゆく
一枚のスナップが
今も胸に残ってる
兄貴として

我が家の血筋か妹も
足だけは早くて
学級対抗リレーの花形で
もっとも親父の応援のすごさに
相手が気おくれをして
随分助けられてはいたが
これも我が家の血筋か
かなりの演技派で
学芸会でも
ちゃんと役をもらった
親父の喜びは言うまでもない
たとえその役が
一寸法師の赤鬼の役であったにしても
妹 才気煥発
夫婦は無我夢中
反抗期を過ぎてお赤飯を炊いて
中学に入れば多少
女らしくなるかも知れぬと
家族の淡い期待あっさり
裏切られてがっかり
兄貴として

妹の初恋は高校二年の秋
相手のバレー部のキャプテンは
よくあるケース
結局言い出せる筈もなく
枯葉の如く散った
これもまたよくあるパターン
彼氏のひとりもいないとは情けないと
親父はいつも
笑い飛ばしてはいたが
時折かかる電話を
一番気にしていたのは
当の親父自身だったろう
危険な年頃と
夫婦は疑心暗鬼
些細な妹の言葉に揺れていた
今は我が家の一番幸せなひととき
も少しこのままいさせてと
祈っていたのでしょう
親子として

或る日ひとりの若者が
我が家に来て
“お嬢さんを僕に下さい”と言った
親父は言葉を失い
頬染めうつむいた
いつの間にきれいになった
娘を見つめた
いくつもの思い出が親父の中をよぎり
だからつい
あんな大声を出させた
初めて見る親父の狼狽
妹の大粒の涙
家中の時が止まった
とりなすお袋に
とりつく島も与えず
声を震わせて
親父はかぶりを振った
けれど妹の真実(ほんとう)を見た時
目を閉じ深く息をして
小さな声で…
“わかった娘はくれてやる
そのまわり一度でいいうばって行く君を
君を殴らせろ”と言った
親父として

妹の選んだ男に間違いはないと
信じていたのもやはり親父だった
花嫁の父は静かに
娘の手をとり
祭壇の前にゆるやかに立った
ウェディング・ベルが
避暑地の教会に鳴り渡る時
僕は親父を見ていた
まぎれもない父親の
涙の行方を
僕は一生忘れないだろう
思い出かかえてお袋が続く
涙でかすんだ目の中に僕は
今までで一番きれいな妹と
一番立派な親父の姿を
刻み込もうとしていた
兄貴として
息子として