◆「三丁目 にしや食堂」【日進】
…奇しくも勝ち得た、一ヶ月振りの連休。
昨年六月迄は、普通に暦通りに休む事が出来、其れが当たり前だと思い、
何でもない様な事が幸せだったと思うが、今と成っては其の尊さを痛感する。
連休初日の昨晩は、「鮨処 いっしん」で旨い寿司と酒を堪能し、
帰宅後は長椅子で轟沈し、寝床に移動し、永眠する勢いで失神する。
が、余りの暑さで眠れず、午前一時に冷房を点け、其れからは順調に気絶。
勿論、悪夢に魘されるのは相変わらずで、快適な睡眠ではない…。
朝は九時に何とか這い出し、二日振りに髭を当たり、身支度を整える。
目高が増えて来て、今の鉢では手狭なので、大き目の鉢を買い求めに出る。
数年振りに「マックシェイク」なる物を啜りたくなり、揚げじゃが芋も購入。
久し振りに吸い付けば旨い物で、揚げじゃが芋は麦酒が欲しく成る…。
帰宅後、目高用の砂利を洗い、鉢に敷き詰め、水を張り、天日で殺菌する。
「*」も天日干ししようと思うも、日焼けして皮が剥けたら嫌なので止す…。
正午を廻り、昼酒をしに、毎度の此方へと出掛ける。
◎「生ビール(中)」五〇〇円
…店に入れば、空席も有り、確りと場所を確保し、昼酒に備える。
酒を呑む環境作りと言うのも大事だ。
厨房内を覗き込み、挨拶を済ませ、女将さんにルービー発注。
ジョッキを傾ける仕草で、「ちょいと、こんな事を…」と伝えれば伝わる。
真っ白に凍ったジョッキに注がれた黄金色のプリン体は何とも悩ましい。
暑気払いとばかりに、喉元を目掛けて流し込む。
全ての雑菌、雑念が押し流されるかの様で、其の清々しさったら無い。
チンカチンカに冷えた冷やっこいルービーは欠かせないな。
周囲の労働中の昼休憩のブルジョワジー様を尻目に、背徳を味わう。
明日からは地獄の労働が待ち構えている…。
◎「鶏の唐揚げ」五五〇円
…すっかり、此方での酒の当ては決まっている。
此の鶏の唐揚げを差し置いて、他には無い。
麦酒と一緒に発注をし、半分程を呑んだ所で遣って来る。
もう、見ているだけで涎が垂れて来るわぃ。
マヨネーズも添えられ、実に心丈夫だ。
箸で摘み上げ、マヨネーズを塗し、がぶりと噛り付く。
すると如何だろう。
カリッと、サクッと香ばしい衣、皮にいちころだ。
もう、此の儘死んでしまっても良いぞなもし。
香ばしさの中から、じんわりと旨味が染み出して来る。
肉に喰らい付けば、張りと弾力が有り、肉汁が溢れ出して来る。
おお、もう、如何にでもして呉れ。
若さ溢れる婦女子の太腿の様な張りと艶と溌剌さには、如何ともし難い。
もう、小父さんは参ってしまうね、此りゃ…。
旨いと言う陳腐な表現しか浮かばない程で、寧ろ、其れが一番適切な表現だ。
◎「細ぎり月見長芋とろろ」三〇〇円
…麦酒も三杯目に差し掛かった所で、食事は如何しようかなと悩み出す。
本日の御薦めが記された黒板が三つ出ている。
「きうり&豚バラしょうが焼き定食」、「なす味噌豚汁セット」、
「夏野菜牛すじカレー和え定食」と、蠱惑的なのが多い。
暫し、胃袋と相談し乍ら、長考に入る。
気付けば、麦酒の炭酸で胃袋が埋まって来ている様に感じられる。
況してや、此の暑さだ。
此処はサラッと、さっぱりと頂ける摘みに的を絞ろう。
と言う訳で、最適なのが有るわぃ。
とろろフェチには堪らない、「細ぎり月見長芋とろろ」と言うのが。
ズリオロシ、もとい、擂り卸しではなく、細切りの様だが良い。
直ぐに女将さんが配膳して呉れた其れは、細切りの長芋に卵黄が乗る。
醤油をぶっ掛け、脇に添えられた山葵と一緒に撹拌する。
卵黄が確りと絡み合い、旨くない訳が無い。
シャキッと、サクッとした軽い歯触りで、ネバっと軽く粘る。
嗚呼、真夏の酒の肴には良いな。
宗教上の理由で野菜は駄目だが、山芋の類は戒律から除外されているので…。
いや~、昼のメロドラマを観乍ら酒を飲ると言うのも良いな。