◆「居酒屋 やず」【宮原】
…先週水曜日。
世間様の御盆休み真っ只中の此の日、賤民の僕も、一日だけ休日を宛がわれる。
と言っても、夏休みと言う名目ではなく、至って普通の公休日。
日がな一日、暑さに項垂れ、極めて自堕落に、非生産的に過ごす。
著しく気分を害し、夕方に不貞寝をし、気付けば十九時半。
嗚呼、貴重な休日が、腹立たしい儘に終わってしまう…。
良し、呑みに出よう。
そう思い立ち、「電氣ブラン」で駄目に成ってしまおうと此方へ。
店に着けば、店内に客は誰も居らず、マスターに訊けば、
夏休みで誰も来ないんだとかで、矢張り、ブルジョワジー様は違うなとね…。
帰省したり、遊び呆けに出掛けたりする様だ。
◎「アサヒスーパードライ生ビール(中)」四五〇円
…四月一日以来、四ヶ月半振りの訪店で、マスターとの挨拶も其処其処に、
何時もの席にどっかと腰を下ろし、先ずはルービー発注。
気分の悪さと、翌日からの過酷な労働への憂いを呑み干そう。
矢張り、缶の雑酒とは違い、こうして外で、ジョッキで呑む麦酒は違うな。
朝鮮民主主義人民共和国の密造酒の様な味はしないからな…。
御通しは南蛮漬け。
◎「マグロ上ブツ」五八〇円
…さてさて、御決まりの御薦め品探しと行きますかね。
壁に貼られたメニューや、厨房内の冷蔵庫に掲げられた白板に記された、
魅惑的なメニューの中から、此れぞと言うのを見付け出すのが好きだ。
とは言え、先ずは魚から頂きたい。
鯵やイナダも有るが、居酒屋でしっくり来るのは、鮪のブツだ。
ぶつ切りの鮪は、ねっとりとした赤身の旨さを感じられるが、
筋張った部位が入っているのも、此れもブツの良さでもある。
麦酒が捗って仕方が無い。
◎「イカのマリネ」四八〇円
…続いては、白板の中から、過去に頂いた事の無い物を見付ける。
何でも、烏賊のマリネらしい。
マリネ、まりね、渡辺マリネ…。
会員番号三十六番ね。
下らない事はさて置いて、出て来た物は、想像とは異なっていた。
烏賊の他に、ブロッコリー、赤茄子、赤ピーマン、胡瓜、セロリが入り、
酸味の効いたテレレと和えられている。
夏らしい、涼やかで爽やかな感じで、スーッとした清涼感が有る。
◎「マグロとアボカドのワサビ和え」六〇〇円
…麦酒も順調に三杯目に到達した所で、蠱惑的なメニューを見付けてしまう。
「マグロ上ブツ」と被るが、此れは発注せずには居られない。
鮪とアボカドと言う組み合わせが好きだ。
此れを考えた人は偉いな。
山葵醤油で和えられた鮪とアボカドの上に、刻み海苔が塗されている。
此の海苔、鮪、アボカドの三位一体の感じが素晴らしい。
夫々の良さを引き出し、何れも潰し合う事無く、最高に旨い。
アボカドのコクが堪らなく、酒が進み、「電氣ブラン」に替える。
◎「ピザ」四五〇円
…さて、「電氣ブラン」に酒を替えた所で、そろそろ〆に向かおう。
テレヴィヂョンでは、フジテレビの歌番組が点いており、
懐かしい曲を聴き乍ら呑むと言う、至福の時だわね。
おおっ、金井克子が出て来たよ…。
其れは兎も角、ザーピーはどんな物でも旨いわね。
伊太利亜人じゃないけど、ザーピーは好きだ。
四〇度の、食道が焼けそうな酒を呷りつつ、其の旨さに酔い痴れる。
新たに「電氣ブラン」の瓶を入れ、へべのレケで店を出て、
とぼとぼ歩いて帰るも、寄り道をしてしまう駄目中年…。