◎「もり生玉子」八五〇円
…金曜日。
最近は曜日感覚も怪しい状態だが、今週末は暦通りに休日確保が出来た為、
此の日は花金で、些かばかり、心が軽く成る要素ではある。
前日に引き続き、珍しく二日連続で池袋に出勤し、朝から通常業務。
然し、午後からは流刑地へと出動しなければ成らない為、時間に制約が有る。
今迄、出っ放しで出来なかった仕事を一つずつ片付け、あっと言う間に昼。
十三時を前に、昼御飯でも食べに出ようと、池袋の街を徘徊する。
尤も、食べる物はラーメンしか無いのだが、好い加減、選択肢が尽きた。
何処でも良いっちゃ良いんだが、何処でも良い訳ではない。
優柔不断の典型だな、僕ぁ…。
月に一度、「らーめん つけめん 鶏の穴」には行くとして、其れ以外は、
特に行きたいと願う店も無いと言うか、「麺処 花田」は行列で無理だし…。
と来れば、自然と、無難なと言っては失礼だが、此方に落ち着いてしまう。
然し、安心、安定と言うのは心丈夫で、菅官房長官並みの心強さが有る。
店に着けば、店外に待ちは無く、隣の「馳走麺 狸穴」は相変わらず盛況だ。
木戸を開けて中に入り、何だかつけ麺気分の為、「もり生玉子」に決定。
前回に続いて、二回連続だが、玉子が齎す幸福感に癒しを求めている…。
生憎の満席で、暫し待たされるも、直ぐに奥のカウンター席へと通される。
大柄で、声の大きい店主氏が目と鼻の先で、何だか、威圧感が有るな…。
さて、着席から一〇分一寸で配膳される。
麺は上がってから少し時間が経過している様だが、まあ、良かろう。
小さい事は気にすんな、ん~、ワカチコ、ワカチコ。
ゆってぃを思い出した所で、余計に冷めない内につけ麺に取り掛かろう。
麺を手繰り、生玉子の白身を絡ませ乍ら、嫌らしい妄想をし、つけ汁にドヴン。
つけ汁は相変わらず濃厚で、濃い味が容易に想像出来る。
甘味、酸味、辛味、動物系の出汁、魚粉の味わい、此れ等がガツンと迫り来る。
強烈な甘味、ともすれば歯と頭が痛くなりそうだが、此れが癖に成るのだ。
パンチの効いた味付けも印象的だが、出汁も確りと活きている。
拳骨、豚足、鶏を基本に、挽き肉や魚介の風味を加えると言うが、実に力強い。
麺は茹で置き感が少し感じられてしまい、乾いていると迄は言わないが、
瑞瑞しさや艶、輝きは控え目で、腰や張り、弾力も何時もよりは感じられない。
先入観だろうか…。
其の瑞瑞しさの欠落は、生玉子の白身で補おう。
ヅルヅルと卑猥な音を立て、絡めた麺を勢い良く啜る。
具の叉焼は結構な量入っており、むっちりとした赤身の部位が殆どだが、
程好い噛み応えで、ややパサつきは感じられるものの、食べ出が有るので十分。
麺麻もたっぷり入り、何時の日か、一〇五〇円の「もりメンマ」頂いてみたい。
葱もザクザクしたのがふんだんに入り、深谷生まれとしては嬉しいわぃ。
最後は、生玉子を崩さずにつけ汁へと移し、其の儘、口内に収める。
そして、つけ汁と黄身を混ぜ合わせる様に、口内で融合させる。
嗚呼、堪らない幸福感だ。
玉子程、費用対効果の良い食材は無いのではなかろうか。
勿論、つけ汁は確りと全て飲み干す駄目中年…。