「居酒屋やず」【宮原】 - 続・ＲＯＣＫ‘Ｎ’ＲＯＬＬ退屈男

◆「居酒屋やず」【宮原】

　…金曜日。
　　肉体疲労が甚だしい一週間を終え、倒れ込む様に高崎から帰って来る。
　　襤褸雑巾の様に草臥れ果て、心身共に限界を迎え、ヘトヘトで宮原駅に降り立つ。
　　こんな晩は、真っ直ぐに家に帰る気分に成れず、何処かに疲労を置いて帰らないと駄目。
　　と言う訳で、一月二十六日以来の此方で、一週間の錆落としを開催する事に…。

　◎「アサヒスーパードライ生ビール（中）」四五〇円
　…重たいトランクケースを転がし、店の扉を引いて開け、一ヶ月振りの訪店。
　　何時もの指定席が埋まっており、厨房側のカウンター席の端っこにヨッコイ、ショーイチ。
　　店内は混雑しており、天手古舞いの忙しさで、中々、発注の順番が廻って来ず、些か放置プレイ。
　　漸く、手透きの頃合いを見計らって、何時ものルービーを発注。
　　グイッと、良く冷えた黄金色のプリン体を、三分の一程、一気に呷る。
　　爽快感に溢れ、一週間の労を労い、慰め、喉湿しをする。
　　御通しは、固焼きビスケットに山葵漬けを乗せた物と、煮凝り。

　◎「ナマコ三杯酢」四八〇円
　…相変わらず、マスターは忙しそうにしているので、其の間、麦酒で繋ぐ。
　　何時もの様に、冷蔵庫に貼り付けられた白板に記されたメニューを眺め、
　　此の日の御薦めメニューを物色し、来るべき発注の頃合いに備える。
　　そして、マスターから、「何にします？」と訊いて呉れ、決めていた海鼠を発注。
　　海鼠と言う物を頂いて以来、其の食感に魅せられ、有れば頂いている。
　　コリッとした歯触りと、歯が減り込む様なクニュッとした食感が最高。
　　三杯酢なので酸っぱ過ぎず、疲れ果てた身体にスッと染み入る様な酸味が心地好い。

　◎「にらめっこ」三五〇円
　…同じく白板のメニューの中から、一体、何だろうと悩んでしまうメニューを発見。
　　以前に頂いた「アホきつね」に続き、期待が持てそうなメニューで、マスターに尋ねてみる。
　　すると、クリームチーズに韮と明太子を混ぜ合わせた物らしく、だから、「にらめっこ」なのか…。
　　クリームチーズも韮も明太子も好きなので、其れを御願いしてみよう。
　　明太子の桃色と、韮の緑色が綺麗で、此れを固焼きビスケットに乗せて頂く様だ。
　　クリームチーズの仄かな酸味を孕んだ円やかさの中に、明太子のピリッとした辛味と、
　　韮の風味が巧く混ざり合い、此れは新しい組み合わせだ。

　◎「和牛のおろしポンズ」五〇〇円
　…麦酒も三杯頂戴し、すっかり良い心持ちに成り、そろそろ「電氣ブラン」に替える。
　　先日の成人病検診の結果で、γ－ＧＴＰの値が悪かったが、呑まにゃ遣ってられん…。
　　「電氣ブラン」に合う摘みを発注せねば成るまい。
　　其処で、実に魅力的な「和牛のおろしポンズ」なる物に決定。
　　調理工程を見ていると、牛バラ肉だろうか、牛肉をフライパンで炒め、其れを皿に移し、
　　其の上にたっぷりと大根卸を乗せてポン酢を掛けた、至って簡素な物だが、蠱惑的極まり無い。
　　牛肉は柔らかく、適度に脂身が有るのでコッテリ感が有るのだが、
　　大根卸とポン酢がさっぱり、すっきりとさせて呉れ、五〇〇円で牛肉を堪能出来るなら最高だ。
　　思わず「電氣ブラン」が進み、肝臓をヂリヂリと虐める感覚も刺激的だ。

　◎「トマトパスタ」五五〇円
　…一頻り、旨い酒と摘みを頂いた後は、〆に温かい蕎麦を頂くのが通例と成っているが、
　　今回は白板に「トマトパスタ」と言う片仮名六文字を発見したので、其れを発注。
　　小生、「パスタ」と言う単語に異様な抵抗が有り、口で発するのも嫌な程。
　　何だよ、「パスタ」って！
　　ゲッティーで良いだろうに。
　　世間様が伊太利亜気触れだから、良くない単語が蔓延るのだ…。
　　あと、「スイーツ」とか言う意味不明な単語も大嫌い！
　　「甘味」で良いだろ、「甘味」で。
　　さて、毒も吐いた所で、出来上がった赤茄子のゲッティーに取り掛かる。
　　此方のマスターは、此の手の洋風な物を作らせたら御手の物だ。
　　赤茄子の仄かな酸味が良く、濃厚過ぎず、〆に啜るにはさっぱりとしている。
　　粉チーズも振り掛けられ、伊太利亜の葉っぱも盛り付けられており、本格的だ。