続・ROCK‘N’ROLL退屈男

続・ROCK‘N’ROLL退屈男 B面⇒https://twitter.com/RandR_taikutsu

「港屋」【虎ノ門】

イメージ 1

◆「港屋」【虎ノ門

 ◎「温かい鶏そば」八五〇円

 …著しく気分を害している状況と、腰痛が相俟って、黄金週間が明けてずっと駄目だ。
  心身共に参っていると言った所か。
  此れに加え、寝起きの悪さが付いて回る。
  寝付きは其処其処良いのだが、夜中に起きる雪隠と、蓄積した疲労が厄介だ…。
  腰にずっしりと疲労が積もり重なった様で、重苦しい鈍痛が纏わり付いている。
  今日も今日とて、重たい鞄を背負い、満員電車に詰め込まれて新橋に出掛ける。
  腰を気遣いつつ、すべき仕事を黙々と、着々と進めて行く。
  汗を拭い、言う事を効かない身体に苛立つも、仕事に切りを付け、十三時に食事に出る。
  今日は目的地が決まっている。
  最近、新橋に辣油風味の日本蕎麦を出す店が有ると、ざっくりとした情報を聞き、
  前日から、文明の利器、インターなネットで検索すると、此方が引っ掛かり、確信する。
  随分と便利な世の中に成ったものだ…。
  新橋駅から、住所は西新橋だが、地図を頼りに足早に向かうと、愛宕山と言う土地らしい。
  ビルヂングの屋上から、東京タワーの先端部分が見える場所も有る。
  さて、目的地はと言うと、一瞬、ガンダーラに行くのかと思うも、何とか辿り着く。
  然しだ…。
  事前に調査して覚悟はしていたが、物凄い行列が、一際、街で異彩を放っている。
  ざっと、店の入口から勘定してみると、優に五〇人は居よう。
  最近、此の手の行列が頗る鬱陶しい性分なので、ラーメン店であれば絶対に回避するのだが、
  此方の蕎麦は、何としても一度は頂いてみたいとそう思い、腹を決め、行列の最後尾に付く。
  何せ、日本蕎麦界の「ラーメン 二郎」とも称されている様なので尚更だ。
  さて、行列を見ると矢張り、近所の会社に勤める月給取りや、オフィスレデーが大半だ。
  僕も思わず、カーデガンを羽織り、サンダルを突っ掛け、大きな財布を持って来れば良かった…。
  眉間に皺を寄せ、噴き出る汗を時折拭い乍ら、列が進むのを只管に待つ。
  グッと、苛苛するのを堪え、待つ事、三十五分。
  漸く、店の入口に辿り着き、店内の様子が窺える。
  店内は薄暗く、黒を基調とした色味で、凡そ、蕎麦屋とは思えない造りだ。
  然も、此方は立ち喰いだから余計だ。
  店の中央に、大きな正方形のロイクーな石が設えられ、真ん中の円形には水が張られている。
  此れがテーブルと言うか食卓で、二〇人程が囲む様にして、犇めき合って一心不乱に蕎麦を啜っている。
  端から見たら、実に奇妙な光景だ。
  何かの自己啓発セミナーの昼休憩と言うか、避難所と言うか、今迄に無い光景だ…。
  さあ、レジで先ずは発注と会計を済ませる方式の様で、予習していた「温かい鶏そば」を発注。
  券を受け取り、更に行列に並び、番が回って来るのを待つ。
  店内奥が厨房に成っており、丸で、学生食堂の様に客は出来上がりを並んで待って受け取る。
  五分程で厨房前に到着し、食券を手渡し、出来上がるのを又しても待つ。
  厨房内の調理過程が具に見て取れるが、回転が命の店だけ有り、豪快且つ大胆だ。
  此れは、客はとっとと啜り、とっとと退店しないと商売上がったりだな。
  餓鬼を連れて来るなんぞ持っての外、喋りに夢中で箸が疎かに成るのも死活問題だ。
  にも拘らず、オフィスレデー風の二人組は、僕が入店する前には既に食事に取り掛かっているが、
  喋ってばかりいるので蕎麦が減らず、明らかに回転を悪くしており、「癌」と成っている。
  食べるのが遅いのは仕方無いが、くっちゃべって遅いのならば、強制退去願いたい…。
  そんなこんなで、並び始めから四〇分で、待望の、念願の「温かい鶏そば」が出来上がる。
  盆を受け取り、冷水を汲み、空いている席を見付け、人混みの中を掻き分け、
  ルーシーが零れない様に慎重に移動し、何とか端っこの吹き溜まりの様な場所を確保する。
  さて、後は心置き無く、無我夢中でバーソーをとっとと啜るのみ。
  卓上には取り放題の生玉子、天かすが置かれており、夫々を取り、準備が整う。
  バーソーはロイクーで、其の上には大量の葱、何百粒と言う大量の胡麻、大量の刻み海苔が。
  海苔をつけ汁に投入した後、バーソーを手繰り、つけ汁に潜らせ、一気に啜ろうではないか。
  つけ汁も又、実にロイクーで、醤油味の甘辛の濃い味で、辣油の辛味が効いている。
  黒胡椒も入っており、爽やかなピリッとした辛さも有る。
  蕎麦はポキポキとした腰の効いた物で、ボソボソ感も有り、立ち喰い蕎麦とは思えない品質。
  ヅルヅルと啜れば、嗚呼、何とも言えない旨さだ。
  つけ汁は可也の濃い味だが、具に大き目の鶏肉がゴロゴロ入っているので、鶏の旨味も出ている。
  天かすを投入したので、コクも増し、何とも良い。
  元の味わいを堪能した後、生玉子を割り入れ、普段は黄身は割らないのだが、
  此の蕎麦に関しては割った方が良かろうと、白身と黄身と混ざり合う様に、蕎麦を絡めて啜る。
  味が円やかに成り、ヅルヅルとして、玉子で幸せを感じる人間には堪らない。
  其れにしても、此の蕎麦は病み付き、中毒症状を生むな。
  日本蕎麦の「ラーメン 二郎」と称される所以が何と無く分かる気がする。
  最後は、卓上に置かれた蕎麦湯を注ぎ、ルーシーを飲み干せば、歯の隙間に胡麻と黒胡椒が挟まる。
  件のオフィスレデー二人組は、未だ食べ終わっておらず、蕎麦が相変わらず残っている。
  其れを尻目に店を出れば、俄かに村雨が降り始め、店では被る様にビニール袋を呉れると言うが、
  ビニール袋を被って街を歩けば、一寸御洒落なホームレスの様に成るので止し、
  傘も差さずに原宿ならぬ、新橋の街を歩き、午後の業務に戻る駄目中年…。