◆「らぁめんや 好陽軒」【桜山】
◎「メンマ(自家製メンマ多入り)竹」一二〇〇円
…日曜日。
前日の朝から岐阜、名古屋へと入り、此の日は二日目にして最終日。
「ニッポン城めぐり」の浪人武将登用でも織田信長、斎藤道三を召し抱えられ、
「ケータイ国盗り合戦」の久方振りの国盗り、空の攻略も至って順調。
八時半過ぎに旅籠を引き払い、「名古屋」、「千種・鶴舞」、「瀬戸・長久手」と、
一気に進軍すべく、名古屋市営地下鉄東山線で横断し、終点の藤が丘駅へ。
其処で乗り換え、愛知高速交通東部丘陵線と言う磁気浮上式鉄道に乗車し、
長久手古戦場駅で下車し、長久手古戦場公園に立ち寄り直ぐに戻る。
再度、藤が丘駅から名古屋市営地下鉄東山線で本山駅で乗り換え、
名城線で市役所駅へと向かい、名古屋嬢、もとい、名古屋城を見学。
昼も近付いて来たので、今回、名古屋を訪れた目的の一つである場所に向かおう。
市役所駅から久屋大通駅で、桜通線へと乗り換えて桜山駅で下車。
大きな通りをとぼとぼ西へと歩く事一〇分。
夢に迄見た「好陽軒」へと辿り着き、自動扉を開けて店内に入る。
気の良い御主人に迎え入れられ、店内の待ち椅子には先客八人が居り、
其の最後尾に接続してヨッコイショーイチし、献立表を眺める。
すると御主人から、「先に御注文を伺って置きます」と訊かれるも、
心は一つ、「竹」と決まっているので発注を済ませてヂッと待つ。
十五分程で席が空き、御主人に促されて止まり木にヨッコイショーイチ。
出入口付近から御絞りを取り、冷水を呷り、逸る気持ちを抑えていると、
目の前に「メンマ 竹」と書かれた黒い食券が置かれる。
厨房内は御主人が接客、配膳、女将さんが調理と言う担当割り。
忙しなく調理する様子も無く、至って平静に、穏やかに調理されており、
客が退店する際は、御主人と女将さんが揃って、「は~い、有難う御座いました。
如何も有難う御座います。♪ま~たどうぞ」と節を付けての声掛けが微笑ましい。
寸胴にすっぽり入る大きさの円形の金笊は、中が四分割されており、
其処に麺を入れて茹で、即ち、一回で四食分が拵えられると言う寸法の様だ。
さて、そして待望の麺麻たっぷり、否、麺麻てんこ盛りのラーメンが目の前に。
常に笑顔の柔和な御主人が手元へと丼を下ろして呉れ、麺麻の量に圧倒される。
さて、先ずは蓮華を手に取り、プースーから啜ろう。
やや濁った感じのプースーは、驚く程に薄味であっさりとした優しい味わい。
此れが「好来系」と呼ばれる薬膳ラーメンかと、感慨深く味わう。
「秘伝和漢根菜汁」と謳い、古来中国より伝わる健康自然食法による製法で、
玉葱、人参、大蒜等、主に地下根菜類を主体にし、地上野菜は勿論、干魚、
昆布、鶏ガラ、豚骨等を豊富に使用し、大蒜、韮等の強壮強精効果抜群と言われる
原料を多量に配分し、長い時間を掛けてごった煮にした物と言う。
大きな鍋で煮る程に美味しいとされており、身体の弱い人、血の気の少ない人、
風邪を引き易い人等に良いとされており、正に薬膳、医食同源の食事だ。
麺は中太の緩やかな縮れが効いた多加水麺で、つるつるとした口当たり。
別段、特筆すべき腰や弾力こそ無いが、此の滋味深いプースーに合わせるには、
突出した癖の有る麺では馴染まないだろうから、前に出ない淑やかさが有る。
そして、プースー、麺と均等に頂かないと減らないのが麺麻だ。
数日掛けて作ると言う手間暇掛けた逸品は、シャキシャキ、ポリポリとした食感で、
此れ又、何とも言えない優しみ溢れるマザー・テレサの様な感じ。
此れを摘みに麦酒を飲りたいと微かな期待を持って御邪魔したが、案の定、
酒類は置いておらず、ラーメンだけに向き合った実直な仕事振りが表れている。
創業は昭和五十一年一〇月と言い、僕の方が九ヶ月年嵩が行っていると言うのに、
此のラーメンには、僕には無い生真面目さと優しさ、柔和な雰囲気が息衝いている。
麺麻の下には叉焼が隠れており、脂肪分を十分に取り除いて調理していると言い、
長い時間とろ火で炊いており、脂っぽさは無く、あっさりとした味わい。
さて、卓上には調味料が豊富に取り揃えられており、先ずは粗挽きの黒胡椒を
ガリガリと挽いて投入すれば、一気に爽やかなひりりとした辛味と風味が立つ。
次は市販のヱスビー食品の「キッチンガーリック」と振り掛ける。
此方では「我立苦」と当てる様で、強精力の元とあり、パンチの有る味わいに変化。
続いては自家製の辣油で、此方では「辛油」と言い、瞬発力の元らしい。
嫌味の無い辛味が加わり、調味料を加える度に旨味が増し、味わいが変幻自在。
元の味が強過ぎないので、如何様にも馴染み、変化する柔軟性を持っている。
他にはヱスビー食品の「キッチンコショー」、酢、そして、疲労回復の元と言う、
高麗人参の入った自家製の人参酢が有るが、此れ等は自重してみる。
麺麻は無限に頂けそうな勢いだが、何だかんだでぺろりと平らげてしまい、
プースーを飲み干し、滋養を得た所で会計を済ませて退店すれば、背中で、
「は~い、有難う御座いました。如何も有難う御座います。♪ま~たどうぞ」と、
熟練御夫婦の声に送り出され、名古屋最後の昼餐を済ませるぽんこつおぢさん…。
~御負け~
長久手古戦場址。
名古屋城。
熱田神宮。