◎「ラーメン」八〇〇円
…木曜日。
急に涼しく成り、漸く、汗っ掻きも落ち着ける様に成って来た。
個人的には実に過ごし易い季節で、ずっと此の位の気温だと助かる。
「寒い」のではなく、「涼しい」、「清々しい」と言った塩梅。
最近は蟹工船生活も若干落ち着き、偶に下船する事が有る。
そんな時は、人間に戻った様な感じがして、生きていると実感する。
蟹工船乗船中は、人間の尊厳もへったくれも無い様な、悲惨な状況で、
食事は愚か、休憩も儘成らない事が屡なので、道理で窶れるわね…。
さて、下船した此の日は朝から池袋へ。
相変わらず、国鉄は体たらくで、毎日、否、日に何度も遅延を起こし、
朝から走ったり、踏んだり蹴ったりで、余計なストレスが溜まる。
扉に荷物が挟まったり、線路に人が下りたり、車輛の点検をしたり、
善くもまあ、次から次へと色々な事が起き、迷惑掛けて呉れるわさ…。
午前中は溜まった残務を片付け、昼は全うな人間に戻ろう。
偶には昼御飯位食べたって、罰は当たらないだろう。
嗚呼、早く人間に成りたい…。
何を食べようか当てが無い儘、池袋の街を彷徨く。
何処も彼処も、有名なラーメン店は行列を為している。
困った時は、無難な此方に御厄介に成ろう。
すっかり、僕の中で其の構図が出来上がっている。
隣の「馳走麺 狸穴」は行列と言うのに、此方は空席が目立っている。
木戸を押し開けて中に入り、券売機の前で一瞬悩む。
最近は「もり生玉子」が続いているので、基本に立ち返り、「ラーメン」で。
食券を購入し、選び放題のカウンター席に腰掛け、食券を提示する。
奥では店主氏の話し声が相変わらずに響き渡っている。
店内の音楽は不意に何故か「Asia」で嬉しくなってしまう。
暫くの後、久方振りのラーメンが配膳される。
う~ん、旨そうな焦げ茶色をしている。
堪らず、蓮華で先ずはプースーから啜れば、おおっ、火傷しそうだ。
此れだから、猫舌は困る…。
九月三〇日以来、約二ヶ月振りの其れは、矢張り、パンチが効いていて旨い。
「もりそば」の様に甘酸っぱさが加わらないので、出汁の感じが強く出る。
動物系の力強さにガシっと胃袋を鷲掴みにされるが、其の後から、
魚介系の風味がじんわりと香り、浮かび上がって来て、何とも心地好い。
表面に油層が構築されているので、冷め難く、こってり度も増す。
涼しくなって来ると、ラーメンが恋しくなるわぃ。
麺を引っ張り上げれば、御馴染み、真っ直ぐの中太の自家製麺。
粉の風味が感じられ、ムチッとした食感、此れが何ともね。
ツルツルし過ぎないので、プースーを適度に吸って絡むので良い。
具の麺麻は量が多く、麺の御数としても成り立つ。
葱もたっぷりで、鳴門、海苔も昭和の中華蕎麦風情を演出している。
叉焼は三枚入っている。
初めに食べた二枚は豚臭さが感じられてしまったが、最後の一枚は秀逸。
噛み応え、弾力、むっちり感に良いねぇと唸ってしまいそう。
ラーメンは叉焼の良し悪しも大きな割合を占める。
押さえ候補の此方だが、外れが無いのが有り難く、近々来ちゃうんだろうな…。