◆「塩そば専門店 桑ばら」【池袋】
…木曜日。
徐々に業務も習得し、慣れつつあるが、駄目を出される事に怯え、萎縮し、
手足も縮こまり、龜の様に首を窄め、猫背でひっそりと仕事を熟す。
此処が駄目、彼処が駄目、此処が違う、彼処が違う、癖が違う、汗が違う、
愛が違う、利き腕違う、御免ね、去年の人に未だ縛られてはいないが、
流石に、硝子の中年、ガラスの四十代なので、心はもっきり折れて複雑骨折…。
此の日も十四時を前に、気分転換を図らないと駄目だと思い、
脱兎の如く飛び出し、くすんで澱んだ空気を吸いに、池袋の街に飛び出す。
折しも、雨は昼過ぎに雪へと変わった様で、暑がりの僕でも薄ら寒い。
行く当ては取り立てて無いので、そう言う時は必ず検索する事が有る。
其れは、此方の毎日の「裏そば」を調べる事。
そして、此れは!と思う時は頂く様にしている。
毎日、蠱惑的な「裏そば」なので、欲を言えば毎日頂きたい位だが、
如何せん、御値段も宜しいので、皇室関係か、石油王でないと無理なので…。
「塩そば専門店」で、「当店 シオソバしかございません」と黒板で謳う程で、
其の中で提供される味噌味に大いに惹かれたので、いざ突撃。
店舗脇の小型の券売機と対峙し、目的の「裏そば」が白板に記されている。
そして、「塩チャーシューそば」の食券を買う様にと指示されている。
其れに従い、暖簾を跳ね上げて店内に入り、カウンター席にヨッコイショーイチ。
食券を提示し、「裏そばで」と御願いする。
屋台の様な感じで、出入口が全開なので、雪が舞い込みそうで寒い。
厨房内は店主氏と女性店員氏の二人体制で、チェリッシュと同じ編成。
然し、店内の音楽は「てんとう虫のサンバ」ではなく、ももいろクローバーZ。
漢字で表記するなら、「桃色白詰草乙」とでも言うのだろうか。
何も、漢字表記にする必要は無いのだが…。
そうこうしていると、相も変わらず仕事が早く、五分足らずで配膳される。
此れは、弛み無い熟練の技と、抜かり無い仕込みの賜物であろう。
つけ汁は辛そうな赤色をしており、すっかり、「*」の事を忘れていた…。
貴重な味噌味を頂ける機会を逸しては悔やまれるので、「*」には我慢を強いる。
一月十九日の「生海苔そば」とは全く方向性の異なる一杯。
釜玉と言う通り、麺は生玉子で絡めてあり、此れは初めての体験だ。
此の玉子が纏わり付く麺を手繰り、赤味を帯びたつけ汁にドヴンと浸して啜る。
おおっ、辛味噌は結構な辛さが有り、ガツンと大蒜の風味が感じられる。
そして、山椒が塗されているので、辛味噌の唐辛子の辛味とは別で攻めて来る。
燃える様な辛味と、痺れる様な辛味が交錯し、一気に汗腺が開放される。
麺は平打ち麺で、モチッとした食感。
此れに玉子で覆われており、其の分、辛さを緩和し、円やかさを齎して呉れる。
つけ麺で釜玉とは、正に新感覚だ。
味付けも良く、蕩ける脂身、解れる赤身が何とも堪らない。
他には麺麻、海苔、葱。
いとも簡単に麺を平らげてしまい、最後は躊躇うも、つけ汁をグイッと飲み干す。
外が雪とは思えない程、汗をだぁだぁ噴出させつつ、何とか完食。
午後は暫く汗が引かず、ナニ親方だよ!と言う感じの屑人間…。