◆「麺屋 江武里」【浅草】
◎「特製(全部のせ)ら~麺」九〇〇円
…昨日。
三連休明けの此の四日間、実に長く、草臥れた…。
通い慣れた池袋を引き払い、新たな勤務地へと引っ越しての一週間。
朝は今迄よりも三〇分早く、七時前に家を出、乗り換えが二度も発生し、
朝から階段の上り下りに息も絶え絶えで、右心房と左心室が暴れ狂う…。
何処で乗り換えると便利か、何両目の車両が空いているか、
何処行きに乗ると何番線に着くか、何番出口で出るのが楽か等々、
通勤と言うものは、経験と技が要り、最良であろう決まった道筋を探し出した。
日常業務は、今週は大きな事故も無く、事無きを得たが、何だろう、
勝手が分からない、知らない人が多い、肩身が狭い、据わりが悪いと言うのは、
其れだけで心がぞみぞみして来て、大人しく粛々と労働に従事するのみ。
唯一の憩いの昼休憩は、初っ端で不案内なので、同僚の方々と一緒に出た為、
中々自由も利かず、今週最終日の昨日、漸く独りで出掛ける事に成功する。
本当は、初日に御邪魔したかった店にとも思ったが、第二候補の此方に決定。
十三時に外に飛び出し、浅草方面へと歩き出す。
駒形橋交差点の五差路付近の此方に辿り着き、引き戸を開けていざ入店。
先客は誰も無く、店内奥に設えられた券売機で食券を購入する方式の様だ。
此方の売りは「江戸醤油ら~麺」の様で、折角なので、具が全部入ると言う、
「特製ら~麺」の釦を押っぺして食券を購入し、食券を店員氏に手渡し、
カウンター席に座る様に促され、一番の席にヨッコイショーイチ。
冷水を汲んで呷り、ホッと一息、束の間の独りに成れる貴重な時間を愉しむ。
そして、五分強でラーメンが配膳され、香ばしい薫りが一気に漂う。
具の全部乗せだけあり、麺が見えない程で、何とも贅沢で心丈夫だ。
先ずは蓮華を手に取り、プースーから啜ろう。
表面には油膜が構築され、馨しい芳香も此れに因る物だろうか。
魚介のガツンとした味わいと、醤油の切れの有る味わいが真っ先に感じられる。
御店主は、かの「麺屋 武蔵」で修業した後に独立されたとの事で、
「ら~麺」とする辺りからも、其の片鱗が窺える。
プースーは浅蜊、蛤、日高昆布、鰹、潤目鰯等、一〇種類程の海産物から、
丁寧に旨味のみを抽出した淡麗魚介スープと言う謳い文句。
秋刀魚の煮干しと羅臼昆布を大量に使用して出汁を取り、
豚骨に数十種類の野菜を加えると言う「武蔵」との違いを打ち出している様だ。
醤油ダレは「ヒゲタ醬油」を使用し、徹底した温度管理で火入れし、
仕上げに江戸の地酒「丸眞正宗」を配合し、奥深さを出していると言う。
続いて、麺を手繰れば、緩やかな縮れの効いた平打ちの中太麺で、
「武蔵」の麺もこんな感じだった様に記憶しており、多加水でツルツルしている。
喉の通りも良く、プースーとの絡み、持ち上げも良く、プリッとした食感。
具はと言うと、「ローストポーク」が三枚入り、塩、香草、香辛料を塗り、
熟成させた後、蒸気対流天火にて低温で焼き上げたと言い、むっちりしている。
鶏叉焼も三切れ入り、此れも同様の製法で作られているのだろう。
此のプースーに最も合うのが、此の海苔と言い、色も黒々としていて風味も良い。
葱は千住葱と言い、全てに於いて江戸に拘った「江戸醤油ら~麺」。
麺麻は細切りの物で、此れも「麺屋 武蔵」譲りと言った所か。
最後はプースーを飲み干し、初っ端のラーメンとしては及第点か。