◆「麺処 花田」【上野】
◎「味卵味噌チャーシューつけ麺」一一九〇円
…水曜日。
毎晩、熱帯夜が続いており、寝苦しくて熟睡なんか出来やしないので、
窓を全開にして寝て居るが、其の所為か、喉が腫れて痛む始末。
窓を閉めれば寝られず、開ければ風邪っ引きの岡っ引き。
一体、如何しろと言うのか。
生き辛い世の中だ…。
さて、話は遡って、真ん中もっこり水曜日の晩。
此の日は偶さか、気の合う同僚の方と時機が有ったので、珍しく呑んで帰る。
上野に流れ着き、小雨も降って来たので、高架下に逃げ込み、
「ふれあい酒場 ほていちゃん」と言う店の軒先で、安価な摘みを当てに呑む。
然し、ホッピーの焼酎が、御替わりの度に致死量を超えて出て来るので、
おぢさんはすっかりヘベのレケで、ぐでんぐでん。
すっかり良い心持ちに成ってしまったので、解散後、独りで悪さをしに…。
相変わらず、堪え性が無い様で、折角痩せて来ていると言うのに。
上野と言えば、池袋に在る此方の支店が在り、もう池袋にも行かないので、
千載一遇の機会を逃してなるものかと、二十二時に雪崩れ込む。
店外に待ちも無く、此れは突撃せよと言う思し召しに違いない。
店内に入り、券売機と対峙するが、何時もは九一〇円の「味噌つけめん」が専ら。
如何言う訳だか、券売機に一二〇〇円を投入してしまっている。
と言う事は、池袋最後の時に頂いた「味卵味噌チャーシューつけ麺」!?
酒で麻痺した脳味噌で、正常な判断が出来る訳も無く、素直に釦をポチっとな。
嗚呼、やっちまったなぁ~。
食券を大陸系の女中さんに手渡し、「野菜で」と御願いしてしまう。
大蒜を自重した事だけは、自分を評価してあげたい…。
冷水を呷り、呑み過ぎた事を後悔し、明朝がきついなと項垂れてみる。
酔っ払ってしょぼくれていると、つけ麺が目の前に差し出される。
「池袋店」で最後に頂いたのは二月六日以来、約四ヶ月振り、
「上野店」に至っては、二〇一五年四月十二日以来、四年一ヶ月半振り。
先ずは蓮華を退かし、麺の上の叉焼二枚、味付け玉子をつけ汁に移し、
其の熱で戻し、蕩けさせる作業から入り、麺を手繰り、つけ汁にドヴンと浸す。
相変わらずドロドロで粘度が高く、冷たい叉焼が縦にして立つ程だ。
大蒜の風味が微かに香り、食欲を一気に掻き立てる。
厳選された拳骨、鶏ガラ、モミジを合わせて煮込んだ後、豚足、
背脂を入れたスープに細かく切った玉葱、人参、長葱の青い部位、
じゃが芋、出汁昆布を加え、野菜を潰し乍ら六時間以上煮込み、
スープを一日冷やして完成させると言う、「花田系」と謳う濃厚な味わい。
炒め野菜は相変わらず熱熱で、久し振りでも口内を火傷しそうに成る。
麺はひんやりとして冷たく、冷水で〆られてキリっとして精悍。
つけ汁をゔぇっとりと纏い、麺の冷たさと炒め野菜の熱さが鬩ぎ合い、
噛んだ歯を押し返さんばかりの強靭な腰と弾力で、ミシミシ音がしそう。
頭蓋骨の中で、其の音が反響するのが分かる。
つけ汁に予め投入されている刻み叉焼は、蕩ける軟らかさで素晴らしいな。
其処へ、バラ肉を巻いた叉焼が二枚加わり、豪族にでも成った気分。
こんな贅沢、皇室関係でもないと叶わないからな…。
味付け玉子は黄身はねっとりと濃厚で、玉子は人を幸せにして呉れる。
最後は、僕の血液の様にドロッドロのつけ汁を飲み干し、記憶も断片的だが、
乗り過ごす事も無く、二十三時過ぎに帰宅する社会不適合者…。