◆「手打ちうどん・そば・奥久慈田舎料理 三次郎」【七里】
…週末の生きる希望の休日も、遂に、到頭、無慈悲にも終わろうとしている。
明日から又、辛く厳しい、長い一週間が始まり、苦悶する日が続くのだろう…。
此の週末は、否、此の週末も、と言った方が正確だろうが、何かする気力も、
体力も丸で無く、暇さえ有れば横に成り、呆け老人の様に寝て暮らす二日間。
動き出す迄に、只ならぬ気力を要し、少し動けば、只ならぬ疲労感を覚え、
外に出れば直ぐに椅子を探し、如何してこんなにも容易じゃないのか。
如何して世間様は、あんなにも生気が溢れて動けるのかが不思議で成らない。
きっと、平日も気力、体力が有り余っていて、余裕綽々なのだろう。
休日最后の昼餐と買い物を兼ね、勇気を振り絞って、正午過ぎに家を出る。
東京環状から脇に入ると、古民家風の建物が突然現れ、いざ突撃。
…鄙びた感じの木戸を開けて中に入ると、正に田舎の趣きの有る民家で、
空いている席に座る様に促され、窓際の席にヨッコイショーイチ。
献立表を眺めれば、蕎麦と饂飩、両方が御薦めの様だが、蕎麦を発注。
そして、肥えると分かって居乍らも、誘惑に負けて小さい天丼も御願いする。
まあ、心的警告反応を和らげる為の措置と思えば安かろう…。
冷水と一緒に鹿尾菜の煮物が提供され、其れを繫ぎに出来上がりを待つ。
先に配膳されたのは「ミニエビ天丼」。
海老、舞茸、茄子、甘唐辛子、人参が入っており、タレは甘からず、辛からず、
不味からず、御飯にも確りと染み込み、天麩羅はカラッと軽く揚がっている。
…此方は茨城県は奥久慈産の軍鶏を売りにしている様だが、其れを見逃しており、
埼玉県民は「彩の国」と言う単語に敏感に反応し、気紛れで此れを発注。
埼玉県と言えば武蔵野饂飩で、豚肉と長葱の入ったつけ汁に、極太の饂飩、
此れが至高の逸品だと思っているが、偶には蕎麦も良かろう。
蕎麦を手繰り、具沢山のつけ汁にたっぷりと浸して啜る。
つけ汁は醤油味の甘辛い味わいで、素揚げした茄子の油や黒豚の旨味が染み出し、
キラキラと肌理細やかな油が浮かんでおり、埼玉県の地場の味だ。
スルスルっと通りの良い蕎麦は、色黒の田舎蕎麦らしい佇まいだが、
細く切られており、繊細な感じも窺え、いとも簡単に平らげてしまいそう。
黒豚は脂身に甘味が有り、豚バラ肉の良さが堪能出来、噛む毎に旨い。
茄子も存分につけ汁を吸ってトロトロで良いわね。
長葱もたっぷり入り、最後はつけ汁を蕎麦湯で割らずに其の儘、グイっと呷る。
色々な旨味が凝縮して、濃い味の甘辛さも相俟って格別だ。