◆「麺屋 六文銭」【宮原】
…今週は四日間の労働だったが、何だかんだ、心がぞみぞみし乍ら、
強制消灯されてからも労働したりと、能力の限界に直面した疲労困憊の一週間。
此の世知辛い現代社会を生き抜く自信なんぞ丸で無く、生まれて来た事を後悔し、
早く寿命を全うする事を、一日千秋の思いで暮らす毎日。
皆様は如何御過ごしだろうか…。
漸く漕ぎ着けた週末の休日は、八時過ぎにのそのそと起き出し、
一〇時前にはホスピタりに出掛ける薬物漬けのポンコツおぢさん…。
簡単な診察を受け、薬物を処方して貰い、十一時には解放される。
折角歩いて出掛けたからには、昼御飯がてら一杯飲ろうと決めていた。
九月二十一日以来、一ヶ月もの御無沙汰の此方へ一番乗り。
◎「サッポロラガー中瓶」五六〇円
…カラカラと硝子戸を開けて店内に入り、券売機で一通り食券を購入し、
女将さんに手渡し、何時もの定位置の止まり木にヨッコイショーイチ。
直ぐに瓶麦酒が出され、手酌で、十一時十五分から口開けの一杯。
赤星をグイっと呷れば爽快な苦味が駆け抜ける。
サッポロビールの前身・開拓使麦酒醸造所から、創業翌年の明治一〇年、
一八七七年に発売された、現存する日本最古の麦酒銘柄ならではの安心感。
熱処理麦酒の確りとした厚味の有る味わいが特徴で、此の苦味が何とも心地好い。
◎「もりそば(中盛)」八九〇円+「トッピングチャーシュー(40g)」二〇〇円
+「味付け玉子」一一〇円
…麦酒をちびちびと飲り、半分程が空き、十五分程でつけ麺の御出座し。
おっ、叉焼の形状が何時もは丸いが、今日のは角張っていて変わったな。
其の叉焼をつけ汁に移し、今回は茹で野菜が最初からつけ汁に投入されている。
さあ、準備万端、万事整ったら、後は麺を手繰って浸して啜るのみ。
つけ汁は安心、安定の甘酸っぱくも、円やかでコクの有る味わい。
重過ぎず、さっぱりし過ぎず、絶妙な塩梅で動物系の出汁が力強さを与えている。
出入口の壁上に飾られた、故・山岸一雄氏の写真と直筆の色紙、
「宮原に旨いものあり 特もりの忘れられない そばの味」が物語る通り、
「東池袋大勝軒」で修業、研鑽を積んだ御店主の実直な仕事振りが味に滲み出る。
国産素材のみを厳選した完全無化調に拘り、滋味溢れる旨味が迸る。
動物系の出汁は、豚背骨、鶏胴ガラ、拳骨、鶏油、豚背脂、豚頭骨、鶏足、
鶏頭から炊き出され、円やかでコクの有る味わいが冴え渡る。
麺は、旧「六文銭」、現「フレンチバル セゾニエ」で打たれた自家製麺。
昨年春頃から、既製の全粒粉から、自家製の全粒粉に変えたとの事で、
玄小麦を仕入れ、より香ばしくする為に炒り、石臼挽きしていると言う拘り。
澱粉等の混ぜ粉を使い、茹で時間を短縮し、もちもち感を出す事も出来るが、
小麦本来の香り、風味が損なわれるので其れをせず、麺を口に入れた瞬間、
広がる小麦本来の香りと風味全てを引き出す為、北海道産一〇割で、
全粒粉を始め、四種類を独自に配合していると言い、麺自体に旨味が有る。
澱粉を使わずして、此の弾力を醸し出すのは、恐れ入谷の鬼子母神だ。
叉焼はつけ汁の熱で戻され、何時もより脂身の部位が多目で、蕩ける味わい。
那須高原豚の肉質の良さが堪能出来、確りとした味付けも心強い。
味付け玉子は齧れば黄身がドピュんと飛び出しそうで、車厘状のねっとり感。
板東英二でなくても、一日六個以上は食べられるに決まっている旨さ。
つけ麺を摘みに麦酒を飲り、最後はつけ汁を残らず飲み干し、
お気に入りの味を存分に堪能し、とぼとぼと歩いて帰る撫で肩のおぢさん…。