◆「中国手打拉麺 馬賊」【浅草】
◎「担々麺」八五〇円
…今週も遂に、到頭、無慈悲にも始まってしまった。
選りに選って、朝から結構な降りの雨が重なると、憂鬱極まりない。
地味に電車も遅延し、良い事が起こる気配が丸で感じられない。
気が付けば、何時の間にか三月で、月日の経つのは驚く程に早い。
此の体感ならば、明後日には年越しの準備をしないといけないのではないか…。
さて、憂鬱な月曜日の午前中、残務を熟して何とか昼に漕ぎ着ける。
外は雨だが、如何せん、歩いて遠出しないと、飲食店が無いので困る。
今日も今日とて、浅草方面へと歩き出す。
別段、当ても無いのだが、宿題店に御邪魔してみようかしらね。
中華人民共和国は反吐が出る程に嫌いだが、名店の誉れ高い此方の味を、
一度は味わっておかないと、毎日浅草に来ている意味が無いので…。
十三時の一〇分程前に到着し、店内へ入ると、運良く空席が有る様だ。
女中さんに促され、奥の止まり木へとヨッコイショーイチ。
座るや否や、「担々麺」を発注すると、女中さんが「担々!」と厨房に伝達。
事前に予習し、此方では「担々麺」が人気の様なので。
発注も済んだので、さ~て、携帯電話でも弄って出来上がりをヂッと待とうと、
頁を開いたと思ったら、「ハイ、タンタンメン!」と配膳される。
えっ!?
座ってから二〇秒で、如何やったら担々麺が出来上がるのだろうか。
他の客の発注と間違いかと思ったが、如何やら、僕の担々麺の様だ。
まあ、出て来るのが遅いよりは良いが、余りに早いのも不安になる…。
気持ちを切り替え、先ずは蓮華を手に取り、プースーから啜ろう。
意外にもサラッとしており、粘度は無く、丼の奥から掬えば、プースーは澄んで、
清湯スープが垣間見え、胡麻の風味が香ばしいが、辛さやこってり感は控え目。
胡麻のコクは感じられるが、さっぱり、すっきりとした鶏ガラの味わい。
見た目程は濃くなく、スッと入って来る優しい感じがする。
麺はと言うと、此方の売りである手延べ、手打ち麺。
厨房からは麺を打っているであろう大きな音が、背中の向こうから聞こえ、
音だけなので、癇癪を起して八つ当たりしている中華人民共和国人が居るのかと、
初訪店なので、些か驚いてしまう…。
其の麺はと言うと、ツルツルした口当たりの真っ直ぐな麺で、
腰は無く、喉の通りが良く、スルスルと軽やかに吸い込まれて行く。
そんな中、麺を啜っていると、隣に客人が座り、担々麺と餃子を発注する。
まさか、餃子は五分は掛かるだろうと、又、担々麺に戻って啜っていると、
何と!三〇秒も経たずに焼き上がって、隣の客人へと提供される。
四十三年間無駄に生きているが、何を如何したら、餃子が三〇秒で焼けるのか。
そして、二〇秒と空けずに、今度は担々麺も配膳され、一丁上がりってなもんだ。
思わず、口をあんぐりと開けて、目が点に成ってしまう…。
さて、気を取り直し、卓上の酢を一廻し、担々麺にぶっ掛ける。
酢の酸味でプースーが円やかに成り、此れで身体も柔らかくなれば有難いが…。
具は挽き肉、菠薐草、葱と簡素だが、都内の有名店だから致し方有るまい。
最後はプースーを飲み干し、吃驚仰天有頂天の担々麺を平らげ、会計して退店。
余りに早く出て来て食べ終わってしまうと、特に雨の日は、残りの休憩時間、
時間を潰す場所が無いので、此方に雨の日に来るのは止そう…。