◎「つけ麺(中)」八五〇円+「メンマ」二〇〇円
…金曜日。
年度末、最後の最後の週末の休日。
明日からは、彼是と変更、改変事項が有り、変化に付いて行けるか如何か。
色々と思う事は有るが、黙々と、粛々と、与えられた業務を熟すより外無い。
取り敢えず、今日一日は大人しく静養に努め、明朝は少し早く出よう…。
さて、話は遡って、高級感も無く、上等でもないプレミヤムフライデイ。
一週間の締め括りは、前週、初めて御邪魔して魅せられた此方にしよう。
旧き良き昭和を思わせる木戸を開けて中に入れば、空席は何とか有りそうだ。
先ずは券売機で食券を購入するが、前回は「つけ麺」を頂いたので、
今回は「らーめん」にしようかなと思うも、「つけ麺」が秀逸だったので。
そして、其のつけ麺の具で入っていた刻み叉焼が絶品だったので、
「チャーシュー」を追加しようと試みるも、何てこったい、「✕」が点っている。
矢張り、運が無い様だ…。
代わりに、仕方無くと言っては何だが、「メンマ」の釦を押っぺして購入。
冷水を汲み、女中さんに食券を手渡し、止まり木にヨッコイショーイチ。
厨房内には御店主と件の女中さんの二人体制で、大空遊平・かほりと同じ編成。
浅草演芸ホール等で随分観たが、解散して離婚してしまったな…。
さて、一〇分強で、つけ汁、麺の順で配膳される。
おおっ、「チャーシュー」の外れ一位で「メンマ」にしたが、此れは立派だ。
麺の上には、無造作に放置された枕木の様に、大量の麺麻がどっさりと。
早速、其の麺麻と海苔をつけ汁に移し、一〇日振りのつけ麺を味わおう。
つけ麺にしては細目の麺を手繰り、浅葱で覆われたつけ汁に浸して啜る。
つけ汁はサラッとした部類だが、だからと言って、あっさり、さっぱりとした、
淡白な味わいではなく、確りと動物系の出汁が感じられる濃厚さ。
魚介豚骨の、今や何処でも頂けるあの味わいではなく、変な甘さも無く、
魚粉で誤魔化す様な小細工も無く、魚介は程好く薫る感じで、他と一線を画す。
円やかでまったりとした口当たりだが、諄くなく、此れは不思議な感覚。
今は無き「麺屋武蔵 江戸きん」、浅草の老舗「与ろゐ屋」で修業したと言い、
夫々の良い所を取り入れたと言って良いだろう。
そして、細目の麺はと言うと、此れが、噛むとポキポキ、コリコリと音がして、
強靭な腰と張り、表面の微かなざらつきが心地好く、箸を持つ手が止まらない。
柄木田製粉の中華麺用粉「黒獅子」、超強力小麦粉「ちからのめぐみ」を使用。
「黒獅子」は、力強く弾力の有る麺に仕上がり、癖の有るスープが確り絡み、
「ちからのめぐみ」は、北海道産「ゆめちから」と長野県産「ハナマンテン」、
二種の小麦を配合し、ロール製粉で、麩質が超強力小麦の特徴が有ると言う。
前回程の驚きは無いが、癖に成る食感だな。
さてさて、大量の麺麻も味わわないと減らないわね。
麺の上に配された物は、提供前に鉄鍋で軽く熱が入れられ、香ばしくしてあり、
最初からつけ汁に沈んでいる物は其の儘で、麺麻で二種類の味が愉しめる。
太さも有り、ポリポリ、シャキシャキ、ゴリゴリと、様々な歯触り。
此れは恐れ入谷神社だ。
更に、刻み叉焼が相変わらず絶妙で、小さく刻まれて食べ出は無いが、
其の良さを窺い知るには十分で、味付けも濃い目で、確りと染みており、
脂身の部位が軽く炙られてあり、トロンと蕩ける膠原質。
嗚呼、何としても「チャーシュー」を増して、此のつけ麺を頂きたい。
宿題、生きる希望を次回へ持ち越し、最後はつけ汁をグイッと飲み干す。
此方と「自家製麺 伊藤」が至近距離に在り、態々、歩いて来る価値は有るな。