◎「てっぱんステーキランチ(140)」一六〇九円
…三月三十一日。
年度末のどん突き、言わば大晦日だが、十二月三十一日の様な高揚感は皆無。
赤と白に分かれて歌う合戦も無ければ、除夜の鐘も撞かない。
毎週末御馴染みのサザエさん症候群も、一際、より一層重症で寝込みそう…。
当然、夢見が良い筈も無く、浅い眠りを繰り返し、都度、変な夢に魘され、
八時半に漸く這い出る事が出来、風呂に入って身を清めた後は、
午前中は極めて自堕落に、非生産的に過ごす駄目人間…。
十一時半にやおら動き出し、休日最後の昼餐を摂りに出掛ける。
そうさのぉ~、何が良かんべかな~と考えた結果、明日からの日常を、
何とか踏ん張ろうと思える物でないと駄目だと思い、そんな時はクーニーだ。
ビフテキと言えば、此方を差し置いて他は無い。
自動車を走らせ、十二時二〇分に到着すれば、当たり前だが待ち客多数。
待合所が避難小屋の様に、押すな押すなの目白押し。
発券機で番号札を発行し、八組待ちをヂッと、グッと堪えて耐えて待つ。
二〇分近くは待ったろうか。
病院で薬物の処方が終わったかの様に、女性店員氏に番号で呼ばれる。
席に案内され、ヨッコイショーイチし、献立表は見る迄も無い。
即座に発注を済ませ、クーニーが焼き上がる迄、プースーを啜って凌ぐ。
勿論、コーンポタージュ、玉蜀黍汁さえ有れば良い。
程好い甘味が有り、とろりとして円やかで、胃袋が優しく包まれるかの様だ。
御替わりに立ち、半分程を啜った所で、手押し車に乗せられて、
大五郎宜しく、しとしとぴっちゃんしとぴっちゃんと、ヂウヂウと音を立て、
香ばしい薫りを振り撒き乍ら、鉄板で焼かれたクーニーの御出座し。
男性店員氏が「宮のたれ」をぶっ掛けて呉れると言うので、御言葉に甘える。
すると、より一層、油が大きな音で暴れ出し、良い芳香に包まれる。
さてさて、冷めない内に、肉切りと肉刺しで一口大に切り分けて頬張ろう。
四〇年前の創業時から有ると言う此の肉の部位はハンキングテンダーと言う事で、
僕の愛する腹身、横隔膜からぶら下がっている「さがり」。
軟らかい赤身肉と謳う通り、適度な噛み応えと軟らかさ、肉肉しさを堪能する。
若焼きで御願いしたので、血が滴る様な感じで、赤々とした切り口は、
正に粘膜、肉襞の内壁を舌でなぞる様な感覚が何とも卑猥で堪らない。
牛脂を注入した成型肉の「宮ロース」では味わえない肉質から伝わる旨さだ。
ビフテキは腰肉、腩でないと駄目だ等と言う様な美食家ではないので、
内臓肉だろうが何だろうが、此れだけ旨ければ何ら問題は無い。
さて、テレレはと言うと、国際味覚審査機構の優秀味覚賞の二つ星受賞と言う、
唯一無二の絶対的な旨さの「宮のたれ」で、此れで頂かないと言うのは、
厠に入って尻を拭かずに出る様なもので、他に「オニオンソース」、
「デミグラス」、「ガーリックトマトソース」、「グレービーソース」、
「ステーキ醤油」と有るが、「宮のたれ」で頂かないと言う馬鹿が居るのか。
まあ、好き好きなので知ったこっちゃ無いが、僕は此れさえ有れば良い。
「宮のたれ」は生玉葱の風味を最大限に活かす為、非加熱製法に依り、
長時間じっくりと冷蔵熟成して作られた生テレレで、補助原料の醤油、
酢を含め、保存料を全く使用せず、 品質を保つ為の加熱処理をしておらず、
原材料は玉葱、大蒜、醤油、酢のみと、極めて簡素なのに美味しく、
約三週間も熟成されると言う自慢の逸品で、市販もされているのが有難い。