◆「居酒屋 たら福」【赤坂】
…五月二日。
此の日から、人生初の博多へと出掛け、日中は太宰府天満宮へと足を伸ばし、
長旅と歩き疲れ、強い陽射しから来る疲労で、暫し、一休み。
十八時を廻ったので、予約を入れていた此方を訪れるべく、夜の天神方面へ。
彼方此方で催し物が行われており、人出も矢鱈と多く、人の多さに恐怖を感じる。
埼玉県の田舎者からしたら、こんな都会、戸惑ってしまうわ…。
予約の時間迄少し有ったので、我が敬愛するチューリップを始め、海援隊、
さて、十九時の十五分前に成ったので、此方へと御邪魔すれば、店内は大混雑、
待ちも発生しており、予約をして置いて良かったと、ホッと一安心。
予約である旨を伝え、趣きの有る古民家風の止まり木にヨッコイショーイチ。
…忙しく動き回る店員氏の邪魔に成らない様、手の空いた隙を見計らい、
先ずは酒を発注するが、偶には外でも一杯目からルービーにしてみよう。
関東以外にはホッピーは無いと思っていたが、一応、此方にも有る様だが。
日中の歩き疲れを癒し、初の博多と言う浮かれ気分に浸り、グイっと呷る。
一二〇〇粁も離れた見知らぬ街に、数時間で辿り着き、其の晩に其処で一献。
何だか、感慨深いものが有り、長生きはしてみるものだな…。
御通しは半熟味付け玉子。
…予約をした際に、事前に何か料理も予約するか訊かれるも、分からなかった為、
席だけの予約にしたが、恐らく、此の「呼子産 やりいか活造」が人気の様だ。
恐る恐る、残っているか訊ねると、運良く有ると言うので、透かさず発注。
そして、生け簀から捕獲され、身包み剥がされて捌かれた烏賊の御出座し。
此れは槍烏賊との事だが、馬鹿舌なので、全く以って構わない。
下足は未だ動いており、活造りと言うのは伊達ではない。
丸で、合成樹脂で出来たかの様な透明度で、此れをポン酢で頂く。
コリッとした歯触りで、噛む程に甘味が増して行き、プツプツと千切れる。
「鮨処 いっしん」のマスターから、烏賊は熟成させて身が白い方が、
断然旨味が強くなると教えられたが、確かに、其処迄の旨味こそ無いものの、
食感と甘味、新鮮さを味わうには最高の頂き方だろう。
「ゴマサバ」、「ゴマカンパチ」、「ゴマダイ」と三種類で悩んだので、
迷った時は別の物をと思い、刺身の盛り合わせを一人前で御願いする。
鹿児島県産の間八が二切れ、鹿児島県産の鰹の叩きが二切れ、帆立貝二切れ、
吉備奈仔一切れ、甘海老一尾が盛り合わされている。
孰れも、旨くない訳が無く、酒が進んで仕方無い。
其れにしても、引っ切り無し、入れ代わり立ち代わりに客が訪れ、
予約や席の確認の電話も頻繁に鳴り、そんな中でも、客席を仕切る支配人氏は、
的確に状況を把握して指示を出したり、会計をし、受電し、予約客を捌きつつ、
来ていない料理は無いかと気に掛けて呉れたり、正に接客業の鑑だ。
…酒は二杯目からは「ホッピー」へと替える。
「ホッピー」は御馴染みの三六〇竓ではなく、三三〇竓の「ホッピー330」。
大した問題では無い。
生物の次は、焼き物も頂きたいなと思っている所へ、目の前の貼り紙が。
僕の好きな銀鱈の西京漬けが有ると言うので、矢も盾も堪らず発注。
ほんのりとした甘味の西京味噌は濃過ぎず、甘ったるさも控え目。
銀鱈は脂が乗って、身は軟らかく、思わず白米が欲しくなる。
勿論、皮もちゃんと頂く。
…さて、別段、わいわい騒ぐつもりは毛頭無いが、一旦、小休止。
箸休めに葉っぱを発注するが、初めての店では、屋号を冠した物を発注すれば、
大概間違いは無いので、此れを発注してみる。
テレレは伊太利亜風で、さっぱりとしているが、其れで居てコクも感じられる。
…刺身、焼き魚、葉っぱと来たら、肉も行って置きたいと言うのが人の性。
御薦めの一品料理の欄に載っていたので、其処は素直なので遵う。
上質な黒毛和牛の尾っぽを骨付きの儘、八時間煮込んだ物と言う。
閉じ込められた肉汁のジューシーさ、箸でほろりと解れる軟らかさが売りとの事。
肉の部位は繊維に沿って簡単に解れ、膠原質はねっとりとしてぷるんぷるん。
骨に武者振り付きたい感じで、ポン酢が効いているのでさっぱりとして、
此れに、添えられた柚子胡椒を塗して頂けば、一気に薫りが華やいで良い。
…初っ端に頂いた「呼子産 やりいか活造」のえんぺらと下足の部位は、
焼きか天麩羅に出来ると言うので、勿論、天麩羅で御願いする。
生で頂いて旨い烏賊は、天麩羅にしても旨いのは当然。
天つゆに浸して噛り付けば、衣はサクッと軽く揚げられ、天つゆでしんなりとし、
えんぺらの皮がパリッとして、身は甘味が有って最高だ。
麦酒一杯、ホッピー四杯を頂き、初日から大当たりで、流石は博多だ。
~御負け~
心字池に掛かる三つの赤い橋を渡って境内に入り、飛梅を拝む。
裏庭を抜けて、お石の茶屋へは寄らず、梅ヶ枝餅も頂かなかったが、
大宰府は春、孰れにしても春。
伝説のライヴ喫茶「照和」。